コードを実行してと頼んだのに、なぜ先にgitを入れろと言われるのか
非開発者がAIで何かを作ってみようと、Claude Desktopに「このコードを実行して」とお願いすると、期待に反してコードが動くのではなく、「まずgitをインストールしてください」という案内が表示されます。コーディングツールであるClaude Codeの説明すら始まっていないのに、gitという聞き慣れない名前がいきなり出てくるのです。
多くの人がここで戸惑います。コードを作りたかっただけなのに、なぜ別のものを入れろと言われるのか、と。しかしこれは順序として自然なことです。AIが作ったコードを安全に扱うには、その変更履歴を管理するツールがまず必要であり、その標準がgitだからです。
gitとは何か
gitは、コードの変更履歴を記録・管理する「バージョン管理」ツールです。Wordや Google ドキュメントの「変更履歴の記録」や「バージョン履歴」を思い浮かべると近いイメージです。ただし、1つの文書ではなく、フォルダ内のコードファイル全体をまるごと時点ごとに保存する点が異なります。
コードを保存するたびに、gitは「その瞬間の全体の状態」をスナップショットのように残します。そのため、コードがどのように変化してきたかを振り返ることができ、望んだ過去の時点にまるごと戻ることもできます。開発者たちが数十年にわたってコードを扱う共通言語であり、AIコーディングツールが前提とする基盤でもあります。
なぜgitを使うべきなのか
最大の理由は「元に戻せること」です。バイブコーディングはAIに「こう変えて」と繰り返し指示していく作業ですが、AIが問題なく動いていたコードを見当違いに書き換えてしまうことがよく起こります。gitがあれば、「さっきの変更の前に戻して」と一言指示するだけで、直前の正常な状態に復旧できます。これがなければ、壊れたコードを手作業で元に戻さなければなりません。
2つ目は安全な保管です。自分のPC上のコードをgitで管理していれば、その履歴をGitHubのようなリモートリポジトリにまるごとアップロードしてバックアップできます。パソコンが故障しても、別のPCでそのまま作業を引き継げます。
3つ目は共同作業です。複数の人が同じコードをそれぞれ修正し、それを1つにまとめる作業を、gitが競合なく整理してくれます。今はひとりで使っていても、規模が少し大きくなれば必ず必要になります。
gitはどこでどうやってインストールするのか
インストール方法は大きく3つあります。1つ目は、公式サイト(git-scm.com)にアクセスして自分のOS用のインストーラーをダウンロードし、普通のソフトと同じように入れる方法です。2つ目は、ターミナルにコマンドを一行入力してインストールする方法です。MacであればHomebrewで、Windowsであればwingetでインストールするのが代表的です。
3つ目、そして私が実際の研修で勧めているのは、インストール作業そのものをClaude Codeにやらせる方法です。「私のパソコンにgitをインストールして」と頼めば、エージェントが今のPC環境を確認し、適切なコマンドを選んで実行してくれます。人によって異なるPC環境や習熟度のせいで生じる「ここでnextを押すの? installを押すの? このオプションは何を選べばいいの?」といったつまずきを、エージェントに任せてしまうわけです。最初の実習そのものが、道具を学ぶ過程になります。
# macOS(Homebrewを使用)
brew install git
# Windows(wingetを使用)
winget install --id Git.Git
# インストール確認(バージョンが表示されれば成功)
git --version私のパソコンにgitをインストールして。
インストールが終わったらgit --versionで確認して。git clone、git push、git pullとは何か
インストールが終わったからといって、すぐにこれらのコマンドを学ぶわけではありません。実際の研修では、バイブコーディングにある程度慣れたずっと後になってから教えます。最初は「とりあえずgitを入れた」で十分です。ただし、この先必ず出会う3つのコマンドなので、意味だけでも先に知っておくと良いでしょう。
git cloneは、リモートリポジトリ(GitHubなど)にあるコードをまるごと自分のPCに複製してくるコマンドです。他人が作ったプロジェクトや自分のバックアップをダウンロードして始めるときに使います。
git pushは、自分のPCで変更したコードの履歴をリモートリポジトリへ送り上げるコマンドです。作業結果をバックアップしたり、他の人と共有したりするときに使います。
git pullは逆に、リモートリポジトリの最新の変更を自分のPCに取り込んで反映させるコマンドです。別のPCや同僚がアップロードした変更を自分側に反映するときに使います。cloneは最初に一度だけ、pushとpullは作業のたびにやり取りするものだと考えればよいでしょう。
# リモートリポジトリを自分のPCに複製
git clone <repo url>
# 自分の変更をリモートに送信
git push
# リモートの最新の変更を自分のPCに取得
git pullgitを入れれば、最初の壁は越えたということ
苦労してインストールを終えたら、まずは簡単なゲームやウェブサイトから作ってみます。「元に戻せる」という安全ベルトが締まっているので、AIに思い切って指示を出し、壊れたら戻すという練習ができます。gitを入れたなら、バイブコーディングの最初の関門は越えたことになります。
非開発者のバイブコーディングは、コードの実力ではなく環境構築の段階でまず差がつきます。だからこそ、AX研修の本当の最初の授業は「AIに何をやらせるか」ではなく、「なぜ最初の道具がよりによってgitなのか」を理解してもらうところから始まります。この壁を越えられた人と越えられなかった人の差が、その後のすべての学習スピードを分けます。
